それでも、腰痛がずっと続いている。
一般的に、整形外科の医師はこのようなMRI画像を見ても、
「特に問題は見当たりません」「大した異常ではありません」と判断することが多いようです。

椎間板内の高信号領域 HIZ(High-Intensity Zone)について
MRIのT2強調画像で椎間板の後方線維輪に現れる限局的な高信号領域。
これは椎間板の亀裂や膨隆、線維輪の断裂や炎症を反映しており、椎間板性腰痛の一因とされます。
HIZは血管新生や神経新生を伴うことがあり、痛みの発生源となる可能性があります。
画像上は一見小さく見えるため、臨床では見逃されやすいことが多いようです。
1. 当院では
腰椎椎間板性腰痛において、椎間板内高信号領域(High-Intensity Zone: HIZ)に注目しています。(MRIをお持ちでしたら、ぜひご持参ください)HIZはT2強調MRIにおいて椎間板の後方線維輪に現れる限局性の高信号領域であり、内部断裂(annular tear)を示唆する。
2. HIZの病態生理
HIZは、椎間板後方の線維輪における断裂部に炎症性変化が加わった状態とされ、病理学的には血管や神経の新生、炎症細胞の浸潤が報告されている。これにより、椎間板内に侵入した神経が刺激を受け、疼痛の発生源となると考える。(いわゆる腰痛、筋筋膜性の腰痛と症状が類似している)
3. HIZの治療経過
HIZ陽性の椎間板は、通常の施術に対して反応性が低く、慢性化しやすいような印象があります。これは、HIZ部位における炎症性因子の持続的発現や神経の過敏性の持続が関与していると考えられ、永続的な抗炎症薬を服用している患者さんも多く、生理学的反応を阻害している可能性があるのではないかと思われ、さらなる工夫を考察しています。
4. 多くの臨床現場では
画像所見として明らかな椎間板変性が認められない症例において、HIZの存在が見逃されている印象があります。
特に、HIZが他の構造的異常に比べて小さく、明瞭な椎間板膨隆やヘルニアを伴わないように見える。
また、HIZの存在は椎間板造影による疼痛誘発とも高い相関を示すとされているが、認知度が低いのか画像上 「異常なし」 とされてしまうようである。
結論
HIZ陽性の椎間板であっても、誤った認識により適切な対応がなされず、保存療法に対する反応が鈍く、慢性化のリスクが高まる可能性がある。
画像上、明らかな異常所見が乏しい症例においても、HIZの存在を常に念頭に置くことが望ましい。
慢性腰痛の背景には、このような広義の椎間板変性が関与しており、決して見過ごしてはならない病態だと考えています。
椎間板損傷度合いの図
腰椎・骨盤領域の臨床解剖学 エルビア・ジャパンより引用

椎間板変性(損傷)の進行度について
正常
椎間板は水分を多く含み、弾力性があり、髄核と線維輪の構造が明瞭に保たれている。椎体間の隙間も十分に保たれており、症状はみられない。
軽度変性/損傷
椎間板の含水量がわずかに低下し、信号強度に軽度の変化が見られる。線維輪の構造はおおむね保たれているが、初期の変性所見が確認される場合がある。自覚症状はないか、あっても軽度。
中等度変性/損傷
椎間板内の水分が明らかに減少し、MRI信号も低下します。
線維輪には断裂や膨隆(膨らみ)が生じはじめ、神経根に対して軽度の圧迫を伴うことがあります。
その結果、腰痛や坐骨神経痛などの症状がみられることが多くなります。
重度変性/損傷
椎間板の構造は大きく崩れ、水分もほとんど失われています。
椎間腔は著しく狭小化し、髄核の逸脱(椎間板ヘルニア)や骨棘形成(骨のとげ)を伴うことがあります。
明確な神経圧迫所見を認め、強い痛みや痺れを引き起こすことが多くみられます。
HIZは、軽度から中等度(中等度の中でも初期段階)の椎間板損傷でよく認められる印象があります。
いずれにしても、画像所見と臨床症状は必ずしも一致するとは限らないため、総合的な判断が重要だと考えます。