腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)では、運動療法について「行うことを強く推奨する(推奨度1)」と明記されています。
近年では、このエビデンスに基づき、整形外科領域の理学療法においてもピラティスなどの運動療法が広く推奨されるようになってきています。当院においても、慢性腰痛に有効とされる症状に合わせた能動的な運動療法を積極的に取り入れております。
ディープスクワットの効果
1. 腰痛予防に重要な筋肉の総合的な使用
ディープスクワット(深くしゃがみ込む)は、多くの筋群を同時に使う全身運動であり、腰椎の安定化・腰痛予防に適した筋群のストレッチ効果が得られる。
主に働く筋肉
・大腿四頭筋
・ハムストリング
・大殿筋
・下腿三頭筋
・体幹筋(腹横筋・多裂筋・起立筋・腸腰筋)
これらが協調することで、腰椎・骨盤・下肢全体の安定につながる。
2. 股関節主導の動きで腰痛リスクを減らす
腰痛の主な原因のひとつは、
「股関節が十分に動かず、腰が代わりに過剰に動く」こと。
スクワットは股関節の屈伸を主体とした動作のため、
腰ではなく股関節で動くパターンが身につきやすい。これにより、腰部への代償ストレスが減少し、腰痛予防につながる。
3. 骨盤と腰椎のポジションコントロールが重要
ディープスクワットでは、骨盤と腰椎の位置が正しく保たれているかが非常に重要です。
悪い使い方の例
・腰椎が丸まる(屈曲位)
・腹圧が入らない
・胸の位置が落ちる
これらのエラーは腰椎を不安定にし、椎間板に対する負荷が増大させます。その結果、脊柱起立筋が遠心性収縮で過剰に働き、腰部ストレス増大して腰痛リスクが高まります。
改善のポイント
・骨盤を立て、腰椎がやや前弯になるくらいの角度を保つ
・腰椎をニュートラルに保ち、丸まりを防ぐ
・腹横筋・多裂筋が働きやすい姿勢をつくる
このポジションが安定すると、脊柱起立筋に不要な負荷がかからず、股関節主導で動きやすくなる。
腰痛リスクを高める動き
・腰椎の屈曲(丸まり)
・脊柱起立筋の遠心性収縮
これらの動きは、腰部への負荷を強めるため、その反対となる腰椎前弯や、多裂筋、腸腰筋の短縮性収縮が重要となる。
4. しゃがみ込みで働く筋の役割
下りる局面(遠心性収縮)=ストレッチ効果
・大殿筋
・大腿四頭筋
・前脛骨筋
これらの筋は、伸ばされながら動作を制御するため、ストレッチ効果によって柔軟性が高まり、同時に筋活動の協調が向上する。
支持・安定に働く筋
・ハムストリング
・下腿三頭筋
・腹横筋
・脊柱起立筋
・多裂筋
これらが働くことで、腰椎・股関節・体幹が安定する。
5. 骨盤を立てることで得られる効果
・腰椎ニュートラルが保たれ、丸まりにくくなる(腰椎の前弯を維持することで、脊柱起立筋と椎間板への負担を軽減できる)
・多裂筋・腸腰筋が適正に収縮しやすくなる(短縮性収縮)
・大殿筋と腹横筋が連携し、体幹の安定性が向上する
・骨盤ポジションが整うことで、腰椎前弯の保持・体幹安定・深層筋の活性化が促される
ポジションコントロールとは
正しい姿勢を作り、その姿勢を崩さずに動く能力。
本質的な3要素
1. 正しい位置に入れる能力
例:
・骨盤を立てる
・腰椎ニュートラル(腰椎の前弯)
・足部アーチを保つ
2. 正しい位置を“保ったまま動ける”能力
例:
・しゃがんでも腰椎が丸まらない
・動作中に腹圧が抜けない
・腰椎の屈曲と脊柱起立筋の遠心性収縮をしない
3. 深層筋(スタビライザー)が働く状態
・多裂筋
・腹横筋
・腸腰筋
・中殿筋
これらが働かないと、アウター(脊柱起立筋・ハムストリング)が代わりに頑張り、痛みの原因となる。
ディープスクワットにおけるポジションコントロールの実践
しゃがむ前
・骨盤を立て、できる範囲で腰椎の腰椎を保つ
・胸郭が落ちないようにし、重心を前にしすぎない
・足圧を適切に配置し、足底でしっかり体重を受ける
しゃがんでいる最中
・骨盤が後傾して腰椎が丸まらないようにする
・腹圧を維持し、抜けないようにする(腰椎は1ミリも動かさない)
・多裂筋が働き、脊柱が安定する状態を保つ
立ち上がり
・腰部を安定させ、股関節、大殿筋が主動筋として使う
・過剰なアウターの代償動作が出ないようにする
まとめ(最重要ポイント)
ディープスクワットは最大限に深くしゃがみ込み、「股関節主導」+「骨盤と腰椎をニュートラル(安定および極めて低負荷)に保つ」
という条件を満たすことで、多裂筋・腸腰筋・大殿筋・腹横筋といった深層・支持筋が正しく働き、腰痛予防と体幹安定に非常に効果的なエクササイズとなる。
さらに、深くしゃがむことで股関節周囲のストレッチ効果が得られ、骨盤を立てることで深層筋の適正な短縮性収縮が促される。その結果、 安定性向上・筋活性化・柔軟性の向上という効果が生まれ、正しく行うことで腰痛予防に非常に効果的な運動になります。






