生活に運動を取り入れる
最新の腰痛診療ガイドラインでは、運動療法について「行うことを強く推奨する(推奨度1)」と明記されています。近年では、このエビデンスに基づき、整形外科領域の理学療法においても、運動療法やピラティスなどが広く推奨されるようになってきています。当院においても、慢性腰痛に有効とされる、症状に合わせた能動的な運動療法を積極的に取り入れております。
運動を行うことで筋ポンプ作用が促され、血流が改善します。これにより、筋・靱帯・関節周囲組織への酸素や栄養の供給が高まり、老廃物の排出が促進されることで、組織の修復環境が整い、こわばった筋や結合組織が緩みやすくなります。このような循環改善は、局所の緊張緩和や鎮痛効果にも寄与します。
さらに、適切な運動を行うことで、筋・関節・皮膚からの感覚入力(固有受容感覚・体性感覚)が中枢神経系に豊富に入るようになり、脳・脊髄レベルでの運動制御や姿勢制御の再学習が促されます。これにより、痛みを回避するために形成された不適切な運動パターンや過剰な筋緊張が修正され、より効率的で安全な動作が可能になります。
慢性腰痛では、痛みを避ける行動が続くことで、実際の身体状態とは異なる誤った感覚情報や運動指令が固定化している場合があります。運動療法によって正しい感覚入力が繰り返し与えられることで、このような感覚‐運動のズレが修正され、過剰な筋緊張や不安定な動作パターンが改善されていきます。
また、運動によって下行性疼痛抑制系が賦活され、脳内でセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が作用することで、痛みの知覚そのものが抑制されることも知られています。これは、慢性腰痛において問題となりやすい「痛みに対する過敏な反応(中枢性感作)」を緩和する重要なメカニズムです。
このように、能動的な運動療法は、
・筋・関節機能の改善
・血行促進による組織環境の改善と緊張緩和
・神経‐筋制御の再構築
・痛み知覚の神経学的抑制
といった複数の側面から作用し、慢性腰痛の改善に加えて、自律神経機能の安定にも寄与すると考えられています。






