認知症におけるBPSD(行動・心理症状)とは
BPSDは認知症の中でも比較的対応に苦労することが多いのではないでしょうか
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは、
認知症に伴って現れる行動面・心理面の症状の総称です。
記憶障害などの中核症状とは異なり、環境の変化、身体の不調、不安、人との関わり方などの影響を受けて、
症状として表出しやすくなります。
そのためBPSDは、周囲の関わり方や環境によって強く現れたり、和らいだりする特徴があります。
主な症状(行動)の例
・徘徊
・介護拒否
・興奮・攻撃的言動
・昼夜逆転
・反復行動
・心理症状
・不安・抑うつ
・幻覚・妄想
・被害的な訴え
・易怒性(怒りっぽさ)
・無気力
なぜ起こるか
不安や感情を抑え、状況を理解する脳の力が弱くなったところに、
身体的不調(痛み、便秘、感染、脱水など)や、環境の変化(騒音、混乱、慣れない場所)、
心理的・社会的な不安(孤独、理解されない体験)が重なり、行動や心理の症状として現れやすくなります。
対応の基本
・原因を探る:体調・環境・関わり方に無理がなかったか確認する
・非薬物的対応を優先:安心できる声かけ、環境調整、生活リズムの安定など
・薬物療法は慎重に:必要最小限とし、効果と副作用を継続的に評価する
神経学的にBPSDを神経学的にみると
BPSDは性格が変わったように見えますが、
実際には、感情を落ち着かせ、状況を理解し、安心を保つ脳の働きがうまく連携しなくなった結果です。
1.前頭前野(ブレーキ役)
本来の役割
感情や衝動を抑える、我慢する、状況を考えて行動する、社会的に適切な判断を行う。
機能が低下すると
感情の抑制が効きにくくなり、怒りや拒否といった反応がそのまま行動として表れやすくなる。
→「我慢する力が弱くなった脳の状態」
2.扁桃体(警報装置)
本来の役割
危険や脅威を察知し、恐怖や不安といった感情反応を生じさせる。
機能の調整がうまくいかなくなると
実際には危険でない刺激に対しても、「怖い」「奪われる」といった強い不安反応が生じやすくなる。
その結果
被害妄想、強い恐怖反応、攻撃的な言動として表れることがある。
→「警報が鳴りっぱなしの脳の状態」
3.海馬(記憶の文脈づけ)
本来の役割
出来事を前後の流れや状況と結びつけて理解し、「いつ・どこで・何が起きたか」を整理する。
機能が低下すると
体験の前後関係が分からなくなり、不安はあるが、その理由を説明できなくなる。
その結果
同じ訴えの反復や、状況と合わない不安として表れることがある。
→「理由が分からないまま不安になる脳の状態」
4.島皮質(身体の不快をまとめる)
本来の役割
痛みや不快感、緊張などの身体感覚を統合し、「今、身体がどう感じているか」を理解する。
機能が低下すると
不快感はあるものの、その正体が分からず、
言葉で伝えられないため、行動として表れやすくなる。
その結果
落ち着かなさや拒否反応として現れることがある。
→「言葉にできない不快が行動になる状態」
5.神経伝達物質のアンバランス
本来の状態
複数の神経伝達物質がバランスよく働き、注意・感情・現実認識が安定して保たれている。
バランスが崩れると
アセチルコリンの低下し、注意力や現実見当識が低下しやすくなる。
セロトニンの低下
不安、抑うつ、易怒性が強まりやすくなる。
ドパミンの過活動
幻覚や妄想が出現しやすくなる。
その結果
症状が時間帯や環境の影響を受けやすくなり、
日内変動や環境依存が目立つようになる。
BPSDとは、情動に関わる脳の回路が先に反応し、理性的に調整する働きが追いつかない状態です。
そのため、本人は「わざと」行動しているのではなく、脳がそのように反応してしまっていると理解できます。
脳の中では、不安や不快は強く感じている一方で、
その理由を説明したり整理したりする力が弱くなっています。
その結果として、感情や身体のつらさが、行動として表現されるのがBPSDです。
行動を止める前に、不安を下げる必要があります。
対応の神経学的根拠
・説得や注意
前頭前野の働きを必要とする関わりであり、この機能が低下している状態では効果が出にくい。
・否定や訂正
扁桃体を刺激しやすく、
不安や恐怖が強まり、症状が悪化しやすい。
必要なことは、
安心できる声かけ・ゆっくりした動き・一定した関わり
扁桃体や島皮質が落ち着き、不安や身体の不快が軽減され、症状が和らぎやすい。
BPSDへの対応では、
「理解させる」ことよりも、
「安心させる」ことを先に行うことが重要です。






