仰臥位で痛みが出るタイプの腰痛
― 筋内圧上昇による腰痛 ―
なぜ仰臥位で筋内圧が上がるのか
筋内圧は「筋膜で囲まれた区画内の圧力」です。
仰臥位では、いくつかの要因が重なることで腰部の区画内圧が相対的に上昇しやすくなります。
1.腰椎伸展方向への微細ストレス
仰臥位では股関節は伸展位となります。
腸腰筋の緊張が強い場合、
・骨盤前傾
・腰椎前弯の維持
が生じ、結果として前弯が保たれます。
仰臥位では本来、重力の影響により腰椎はニュートラル方向、あるいはややフラット方向に近づきます。
しかし、
・筋緊張
・股関節因子
が存在する場合には、前弯が保持、あるいは強調されることがあります。
その結果、腰椎は相対的に伸展方向(腰が少し反る方向)への微細ストレスを受けることがあります。
このとき
脊柱起立筋群(腸肋筋・最長筋・多裂筋など)が短縮位に近づく
筋腹の容積が増加する
筋膜内スペースが相対的に減少する
結果として、区画内圧が上がりやすくなります。
特に炎症や浮腫がある場合は、さらに圧が逃げにくくなります。
2.静脈還流の変化
仰臥位では、腰部の深部静脈の血液の流れ(静脈還流)がやや滞りやすくなります。
通常、血液は筋肉の収縮によって押し戻されます。
これを筋ポンプ作用といいます。
しかし、横になって動いていない状態では筋肉がほとんど収縮しないため、
筋ポンプ作用が十分に働きません。
その結果、
血液が一時的に滞る(うっ血)
↓
筋肉の区画内の圧が高まる(区画内圧上昇)
という流れが起こることがあります。
横になってじっとしていると、筋肉がポンプのように血液を押し戻す働きが弱くなります。
そのため血液がたまりやすくなり、筋肉の中の圧が高まることがあります。
3.筋の持続的な防御緊張
急性期や炎症がある場合、
体は無意識に腰部を守ろうとして微細な持続収縮を起こします。
仰臥位では一見「休んでいる」ように見えますが、
深部筋は完全には弛緩していない
むしろ伸展方向で張力を保とうとする
これが慢性的な圧上昇状態を作ることがあります。
4.体圧分布の影響
硬い寝具や体型の影響によっては、腰部が浮いた状態になることがあります。
その場合、
・身体を支える接触面が少なくなる
・限られた部位に圧が集中する
このように体圧が偏ると、腰の一部に強い圧が集中します。
その圧は、皮膚の表面だけでなく、筋肉の奥(深部組織)にまで伝わります。
もともと筋肉の中の圧(筋内圧)が高まりやすい状態にあると、
そこに外からの圧が重なることになります。
つまり、内側からの圧+外側からの圧
が同時にかかることで、血流がさらに悪くなり、痛みが出やすくなります。
【仰臥位で筋内圧が上昇し、痛みが発生する理由としては、次の要因が考えられます】
・伸展方向(腰が反る方向)へのストレス
→ 筋線維や筋膜への圧縮ストレス
・静脈還流の低下
・防御性の持続収縮
・体圧分布の問題
これらが重なることで、
血流低下
↓
発痛物質の滞留
↓
神経終末の刺激
という流れが生じ、痛みとして認識されます。
【クッションを入れると楽になる】
前弯サポートによる伸展ストレスの軽減
腰部が浮いている状態では、
・腰椎が相対的に伸展方向へ偏る
・後方組織に圧縮ストレスがかかる
クッションを入れると、
・腰部の隙間が埋まる
・ニュートラルに近づく
・局所的な伸展ストレスが減る
結果として、筋内圧の上昇が抑えられます。
防御性収縮の緩和
支持が安定すると、身体は「守らなくてよい」と判断します。
すると、
・深部筋の持続収縮が緩む
・無意識の緊張が減る
これも痛み軽減に寄与します。
【クッションで楽になる理由】
クッションを腰の下に入れると楽になるのは、いくつかの作用が同時に働くためです。
・伸展方向ストレスの軽減
腰が反る方向への負担がやわらぎ、筋肉や関節への圧迫が減ります。
・体圧の分散
体が触れる面積が広がり、特定の部位に圧が集中しにくくなります。
・静脈還流の改善
圧迫が軽減することで血液の流れ(特に静脈の流れ)が保たれやすくなります。
・防御性収縮の緩和
体が安定すると、無意識に続いていた筋肉の緊張がゆるみやすくなります。
これらの
力学的な安定+血流の改善+筋緊張の緩和
が重なり、痛みが軽減すると考えられます。
【このタイプにみられやすい特徴】
・仰向けで寝ると痛みが出やすい
・横向きでは比較的楽
・膝を立てると楽になる
膝を立てる姿勢では、
・腰椎の反り(伸展)が軽減する
・骨盤の前傾が緩む
・ハムストリングスや腰背部の緊張が緩和する
その結果、深部筋の持続的な緊張がやわらぎ、筋内圧が下がりやすくなります。
仰臥位で痛みが出るタイプの腰痛は、状態としてはあまり良いとはいえませんが、適切なケアを行うことで疼痛が軽減するケースは少なくありません。
また、「寝具や寝方が悪いのではないか」と考える方も多いのですが、実際にはそれらが主な原因であることは少ないと考えています。
仰臥位は本来、身体への外的負荷が比較的少ない姿勢です。
それにもかかわらず痛みが出る場合は、
・伸展方向へのストレス
・循環の低下
・防御性の持続的緊張
といった内的要因が関与している可能性が高いと考えられます。
これらを改善していくことで、このタイプの腰痛は、構造的に大きな問題を伴わないケースも少なくないという印象です。







