仰臥位で痛みが出るタイプの腰痛
― 筋内圧上昇による腰痛 ―
「何か心当たりはありますか?」とお聞きすると、
「特にありません」と答えられることがよくあります。
しかし実際には、
・ストレスによる無意識の筋緊張、血行不良、睡眠不足、普段と違う動作や負荷などが重なり、
自覚がないまま、組織に微細な負担が蓄積していることがあります。
その流れを整理すると、次のようになります。
疲労・過緊張
↓
微細損傷
↓
炎症反応(炎症性サイトカイン・プロスタグランジン などの放出)
↓
侵害受容器の感作(閾値低下)
↓
筋防御性収縮(短縮傾向)
↓
組織内圧上昇・圧縮ストレス
↓
痛覚入力の増加
↓
脳で痛みとして認識
↓
不安・苦痛・警戒反応
変形性腰椎症などの変性疾患が存在している可能性も否定はできません。
ただし、画像上の変化と痛みが必ずしも一致するとは限りません。
実際には、多くの痛みは日常生活の中で生じる小さな負担が積み重なり、
ある閾値を超えたときに症状として現れる、と理解するほうが自然な場合も少なくありません。
本来であれば、仰臥位は腰部および椎間板に対して解剖学的・生理学的に負担が最も少ない姿勢であり、
基本的には推奨される体位です。
それにもかかわらず仰臥位で痛みが出現する場合には、筋緊張や微細炎症、区画内圧上昇による圧縮ストレス、
あるいは侵害受容器の感作などが関与している可能性が考えられます。
つまり、構造的な問題というよりも、機能的・生理学的な要因が影響しているケースも少なくないのです。
なぜ仰臥位で筋内圧が上がるのか
筋内圧は「筋膜で囲まれた区画内の圧力」です。
仰臥位では、いくつかの要因が重なることで腰部の区画内圧が相対的に上昇しやすくなります。
1.腰椎伸展方向への微細ストレス
仰臥位では股関節は伸展位となります。
腸腰筋の緊張が強い場合、
・骨盤前傾
・腰椎前弯の維持
が生じ、結果として前弯が保たれます。
仰臥位では本来、重力の影響により腰椎はニュートラル方向、あるいはややフラット方向に近づきます。
しかし、
・筋緊張
・股関節因子
が存在する場合には、前弯が保持、あるいは強調されることがあります。
その結果、腰椎は相対的に伸展方向(腰が少し反る方向)への微細ストレスを受けることがあります。
このとき
脊柱起立筋群(腸肋筋・最長筋・多裂筋など)が短縮位に近づく
その結果、区画内圧が上昇し、筋膜コンパートメント内の微小血管や神経終末に対して
圧縮ストレスが加わる。
炎症や浮腫が存在する場合、この圧縮ストレスはさらに増強され、
侵害受容器が刺激されやすくなる。
2.静脈還流の変化
仰臥位では、腰部の深部静脈の血液の流れ(静脈還流)がやや滞りやすくなります。
通常、血液は筋肉の収縮によって押し戻されます。
これを筋ポンプ作用といいます。
しかし、横になって動いていない状態では筋肉がほとんど収縮しないため、
筋ポンプ作用が十分に働きません。
その結果、
血液が一時的に滞る(うっ血)
↓
筋肉の区画内の圧が高まる(区画内圧上昇)
という流れが起こることがあります。
横になってじっとしていると、筋肉がポンプのように血液を押し戻す働きが弱くなります。
そのため血液がたまりやすくなり、筋肉の中の圧が高まることがあります。
3.筋の持続的な防御緊張
急性期や炎症がある場合、体は無意識に腰部を守ろうとして微細な持続収縮を起こします。
仰臥位では一見「休んでいる」ように見えますが、深部筋は完全には弛緩していない
むしろ伸展方向で張力を保とうとする。
これが慢性的な圧上昇状態を作ることがあります。
4.体圧分布の影響
硬い寝具や体型の影響によっては、腰部が浮いた状態になることがあります。
その場合、
・身体を支える接触面が少なくなる
・限られた部位に圧が集中する
このように体圧が偏ると、腰の一部に強い圧が集中します。
その圧は、皮膚の表面だけでなく、筋肉の奥(深部組織)にまで伝わります。
もともと筋肉の中の圧(筋内圧)が高まりやすい状態にあると、
仰臥位では腰椎がわずかに伸展方向へ偏り、筋肉内部の圧が上昇しやすくなります。
さらに、腰が浮くことで支持点が限られ、仙骨部や胸腰移行部などの接触部位に体重が集中します。
このように、
筋肉内部の圧の上昇(内圧)+支持点に集中する接触圧(局所外圧)
が同時に存在すると、周囲の微小循環がさらに低下しやすくなります。
その結果、血流障害や発痛物質の蓄積が起こり、痛みが出やすくなります。
【仰臥位で筋内圧が上昇し、痛みが発生する理由としては、次の要因が考えられます】
・伸展方向(腰が反る方向)へのストレス → 筋線維や筋膜への圧縮ストレス
・静脈還流の低下
・防御性の持続収縮
・体圧分布の問題
これらが重なることで、
血流低下
↓
発痛物質の滞留
↓
神経終末の刺激
という流れが生じ、痛みとして認識されます。
【クッションを入れると楽になる理由】
クッションを腰の下に入れると楽になるのは、いくつかの作用が同時に働くためです。
1.伸展ストレスの軽減(前弯サポート)
腰部が浮いている状態では、
・腰椎が相対的に伸展方向(反る方向)へ偏る
・後方組織や伸展筋群に圧縮ストレスがかかる
といった負担が生じやすくなります。
クッションで腰部の隙間を埋めると、
・腰椎がニュートラルに近づく
・局所的な伸展ストレスが軽減する
その結果、筋肉の過度な短縮や膨隆が抑えられ、筋内圧の上昇が起こりにくくなります。
2.体圧の分散
クッションを入れることで接触面積が広がり、
限られた支持点に体重が集中しにくくなります。
これにより、
・局所の接触圧が低下する
・深部組織への圧迫が軽減する
結果として、微小循環が保たれやすくなります。
3.静脈還流の改善
圧迫が緩和されることで、
・毛細血管の血流が保たれやすくなる
・静脈還流が改善しやすくなる
うっ血が軽減することで、発痛物質の滞留も起こりにくくなります。
4.防御性収縮の緩和
支持が安定すると、身体は過度に緊張する必要がなくなります。
その結果、
・深部筋の持続収縮が緩む
・無意識の筋緊張が減少する
これも疼痛軽減に寄与します。
クッションの効果は、
力学的安定(伸展ストレスの軽減)+ 体圧分散(外圧の調整)+ 循環改善+ 筋緊張の緩和
という複合的な作用によるものです。
その結果、筋内圧が下がりやすくなり、痛みが軽減すると考えられます。
【みられやすい特徴】
・仰向けで寝ると痛みが出やすい
・横向きでは比較的楽
・膝を立てると楽になる
膝を立てる姿勢では、
・腰椎の反り(伸展)が軽減する
・骨盤の前傾が緩む
・ハムストリングスや腰背部の緊張が緩和する
その結果、深部筋の持続的な緊張がやわらぎ、筋内圧が下がりやすくなります。
仰臥位で痛みが出るタイプの腰痛は、状態としてはあまり良いとはいえませんが、適切なケアを行うことで疼痛が軽減するケースは少なくありません。
また、「寝具や寝方が悪いのではないか」と考える方も多いのですが、実際にはそれらが主な原因であることは少ないと考えています。
仰臥位は本来、身体への外的負荷が比較的少ない姿勢です。
それにもかかわらず痛みが出る場合は、
・伸展方向へのストレス
・循環の低下
・防御性の持続的緊張
といった内的要因が関与している可能性が高いと考えられます。
これらを改善していくことで、このタイプの腰痛は、構造的に大きな問題を伴わないケースも少なくないという印象です。
側臥位(横向き)が楽、その理由とは
1.伸展ストレスが減る
側臥位では、
・腰椎前弯が中間位に近づきやすい
・伸展方向(反る方向)の偏りが減る
そのため、脊柱起立筋群や多裂筋の短縮ストレスが軽減します。
結果として、筋腹の膨隆や区画内圧の上昇が起こりにくくなります。
2.体圧が分散する
側臥位では、
・筋線維の接触面積が広がる
・腰部への一点集中が起こりにくい
仰臥位で腰が浮いていた人は、側臥位になると腰部への外圧集中が減ります。
そのため、
外側からの圧迫が減少
→ 筋内圧の相乗上昇が起こりにくいという状態になります。
3.防御性収縮が緩みやすい
側臥位は、
・体幹がわずかに屈曲方向
・股関節も軽度屈曲
になることが多い姿勢です。
この姿勢は腰部伸展筋群にとって緊張が抜けやすい肢位です。
その結果、
・深部筋の持続的緊張が緩む
・血流が回復しやすい
「腰が反る負担が減り、筋肉の圧が下がるから楽になる」







