慢性腰痛と神経の変化 (運動は脳を整える)

 

 

慢性腰痛と神経の変化について

運動は脳を整える

 

慢性腰痛では、腰の筋肉や関節だけでなく、脳や脊髄といった中枢神経系にも変化が起こります。

これを神経学的には「感覚‐運動統合の変化」と説明します。

つまり、感じ方と動かし方の連携がうまくいかなくなる状態です。

 

 

1.痛みが長く続くと何が起こるのか

 

感覚の変化(痛みを感じやすくなる)

痛みが長く続くと、神経の働きが次第に変化します。

・脊髄で痛みの信号が強く伝わりやすくなる(痛み信号の増幅)

・「中枢性感作」と呼ばれる、痛みに過敏な状態が起こる

・本来は痛みを抑える働き(抑制系)が低下する

・脳の感覚を感じ取る部分(一次体性感覚野:S1)で、体のイメージが変化する

その結果、実際の組織の状態以上に痛みを強く感じやすくなることがあります。

 

 

動きのコントロールの変化

痛みを避ける動きが続くと、脳の運動をつかさどる部分にも変化が起こります。

・一次運動野(M1)の指令の出し方が変わる

・動きを準備・計画する領域(補足運動野・運動前野)の働きに変化する

・腰を支える深い筋肉(腰部多裂筋など)の働きが弱くなる

・代償として、表面の筋肉が必要以上に緊張する

このような状態が続くと、身体を守ろうとする「防御的な運動パターン」が習慣化していきます。

その結果、動きの滑らかさや協調性が低下し、感覚と運動の連携がさらに乱れやすくなります。

 

 

なぜそれが問題になるのか

痛みを避ける動きは、短い期間であれば体を守る大切な反応です。

しかし、それが長く続くと次のような状態につながります。

筋肉が常に緊張してしまう

・動きがぎこちなくなる

・余計な力を使うため疲れやすくなる

痛みが慢性化する

つまり、体を守るはずの反応が、逆に痛みを長引かせる原因になることがあるのです。

慢性腰痛は「腰だけの問題」ではなく、

神経の働き方が変化している状態でもあります。

そのため、適切な運動によって

「正しい感覚」と「正しい動き」を脳に学習し直させることが、改善への大切なステップになります。

 

 

 

 

2.感覚‐運動のズレとは何か

 

私たちの脳は本来、

・動きをあらかじめ予測して運動指令を出す

・身体からの感覚情報を受け取る

・予測された感覚と、実際に返ってきた感覚との誤差を修正する

という仕組み(フィードフォワード+フィードバック制御)で、体を正確に動かしています。

(予測された感覚とは、動いた結果として返ってくるはずの身体感覚の予測のこと)

 

つまり、「どのように動くか」という運動の予測と、「実際に動いた結果として得られた感覚」を照らし合わせながら、常に誤差を小さくするように微調整しているのです。

 

しかし慢性腰痛では、

・実際の組織の状態

・脳が予測している危険な体のイメージが一致しなくなることがあります。

その結果、脳の中で

「動く=危険かもしれない」

という予測が優先され、

本来は安全に動ける範囲でも、

・無意識に筋肉が強く緊張する

・動きが硬くなる

・体が過剰に防御する

といった状態が固定化していきます。

これが「感覚‐運動のズレ」です。

 

「脳の働きがうまく調整できなくなっている状態」

 感覚と運動出力のズレとは、実際の体の状態と、脳が出している動きの指令との間に生じる誤差のことです。

その結果、体はすでに安全な状態であっても、脳がまだ危険だと判断してしまい、動きに無意識の力みや過剰な緊張が生まれてしまいます。

 

 

 

 

3.なぜ運動療法が有効なのか

運動療法は、このズレを神経レベルで修正していく働きがあります。

 

正しい感覚の再学習

体を動かすと、

・筋肉(筋紡錘・ゴルジ腱器官)

・関節

・皮膚

から多くの感覚情報が脳へ送られます。

これが繰り返されることで、

・脳の感覚を感じ取る領域(一次体性感覚野:S1)が再調整される

・体の位置や動きの感覚が正確になる

といった変化が起こります。

 

運動の出力の正常化

適切な運動を継続すると、

・一次運動野(M1)の働きが整う

神経の抑制系(GABA作動性回路)が回復する

・深部筋が適切なタイミングで働くようになる

など、動きの質が改善します。

 

その結果、

力みの少ない、効率的な動きへと再学習されます。

 

「動いても大丈夫」という再学習

安全に動けた経験を繰り返すことで、脳の予測が修正されます。

これは予測符号化理論で説明され、

・危険だという予測が弱まる

・扁桃体(不安や警戒に関わる部位)の過活動が落ち着く

・前頭前野のコントロールが強まる

といった変化が起こります。

 

つまり、

脳が「動いても安全」だと学び直していくのです。

 

 

 

 

4.結果として起こる変化

このような神経の再調整により、

・過剰な筋緊張が減る

・動作が安定する

・中枢性感作が緩和する

・痛みを感じにくくなる(痛み閾値の上昇)

といった改善が期待できます。

 

運動療法は単なる筋力トレーニングではありません。

神経可塑性(脳の変化する力)を活用して、

感覚と運動のネットワークを再構築していく治療法です。

 

体を動かすことは、

「筋肉を鍛えること」であると同時に、「脳を整えること」でもあるのです。