腰痛考察17
なぜ、姿勢が悪くなるのか?
一般的に「神経」というと、多くの人は運動神経(筋肉を動かす)や知覚神経(触覚や痛覚などの感覚を伝える)を思い浮かべます。
しかし、実際には姿勢制御に特化した神経系が極めて重要です。
姿勢制御に関わる神経系は、単に「動かす・感じる」にとどまらず、全身のバランス維持や空間定位を担う複合的なネットワークです。
ここでいう「空間定位」とは、姿勢制御やバランス維持において非常に重要な要素であり、簡単にいうと「自分の体が空間の中で、どの位置・向きにあるかを把握する能力」のことです。
姿勢制御に重要な3つの神経系
1.【運動神経】意識的に動かす(錐体路系)
・α運動ニューロン(骨格筋収縮を直接収縮させる指令を出す)
・γ運動ニューロン(筋紡錘の感受性を調整し、筋緊張の微調整に関わる)
姿勢保持や重心移動のための筋活動を出力(錐体外路系や脊髄、前庭反射などの反射回路と連携)
2.【感覚神経】体の情報を感じ取る
・固有感覚(深部感覚):筋紡錘・腱紡錘・関節受容器からの情報
・前庭感覚:内耳で頭部の動き・傾きを感知
・視覚:空間定位と重心制御に必須
これらの感覚入力がなければ、運動神経は正確に働けない
3.【錐体外路系】無意識的な姿勢・筋緊張・動作の滑らかさを調整する(自動的運動制御)
あまり一般には知られていませんが、姿勢制御の主役なのです。
・前庭脊髄路・網様体脊髄路・赤核脊髄路・視蓋脊髄路などで構成
・小脳や脳幹、大脳基底核と連携し、無意識的に姿勢やバランスを調整
随意運動(錐体路)を支え、転倒や姿勢崩れを防ぐ安全装置として働く
なお、この3つの神経系には「左右の情報の交叉」という特徴があります。
1と2の運動神経系・感覚神経系では、多くの経路が脳幹(錐体)で左右が交叉します。
そのため、右脳が左半身を、左脳が右半身を主に制御・感知しています。(これは一般にもよく知られている仕組みです)
一方、3の錐体外路系は、同じ側で働く経路が多く、右脳は右半身、左脳は左半身の姿勢や筋緊張を調整します。
この同側優位の特性によって、つまずきや揺れなどの外乱が起きたときにも、反対側を経由せず即座にその場でバランスを補正できるのです。
錐体外路は経路によって交叉の有無が異なる。特に体幹・姿勢を司る前庭脊髄路や網様体脊髄路は同側優位であるが、赤核脊髄路や視蓋脊髄路は対側支配である。したがって臨床的には、「錐体外路は同側優位の傾向」とされる。
姿勢制御に重要な運動神経
【錐体外路系の解説】(姿勢・筋緊張の自動制御)
赤核脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路など、意識的な運動というより、反射や自動的な筋緊張調整に関わる。
錐体外路系は、随意運動を担う錐体路とは異なり、意識せずに行われる運動や姿勢・筋緊張の調整を主な役割としています。
各神経の働き
・前庭脊髄路:内耳の前庭器官からの情報をもとに、体幹や四肢の伸筋を促し、重力に抗して姿勢を保つ。
・網様体脊髄路:脳幹の網様体から全身へ信号を送り、筋緊張を背景で支え、動作の開始や停止を円滑にする。
・赤核脊髄路:上肢や肩周囲の動きに関与し、随意運動の補助や協調動作の滑らかさを保つ。
・視蓋脊髄路:視覚反射による頭頸部を調整。
これらは小脳と密接に連携し、感覚神経からの情報(固有感覚・前庭感覚・視覚)を統合して即座に反応します。
また、同側優位で働くことにより、外乱やバランス崩れに対して、一瞬で筋活動を変化させる「調整装置」として機能します。
言い換えると、錐体外路系は「体の無意識な調整系」であり、私たちが意識して動く前に、すでに姿勢を立て直してくれている存在です。
姿勢制御に重要な感覚神経
【体性感覚】(固有感覚:深部感覚)
・筋紡錘(筋の長さや変化速度を検出)
・腱紡錘(筋の張力を検出)
・関節受容器(関節角度や動きの情報)
→ 動作や姿勢のズレを素早く検出し、脊髄反射や小脳で補正信号を生成します。
【前庭感覚】(平衡感覚)
内耳の半規管(回転運動を検出)
耳石器(直線加速度や傾きを検出)
→ 頭の動きや重力方向を把握し、前庭脊髄路などを介して姿勢筋の働きを調整します。
【視覚】
周囲の景色や床・建物などの水平ラインとの位置関係を利用して体の傾きを検知
→視覚情報が遮断されるとバランス維持が難しくなることからも、その重要性が分かります。
姿勢制御を統合する中枢神経系
脳幹、小脳、大脳皮質、大脳基底核が、感覚神経からの情報と運動神経の出力を統合し、随意運動と無意識的な姿勢保持を同時に調整します。特に、小脳は誤差修正を担い、脳幹は反射的な姿勢保持に強く関与し、大脳基底核は筋緊張や動作の滑らかさを背景でコントロールします。
姿勢が悪くなるのは、筋肉だけの問題ではなく、むしろ神経の問題
「姿勢が悪くなるのは筋肉が弱いから」という説明を耳にすることがあります。
確かに筋力は姿勢を支えるために重要な要素ですが、それだけが原因ではありません。もし筋力が原因なら、筋肉量の少ない子どもや細身の人は、皆すぐに姿勢が崩れてしまうはずです。しかし実際には、筋肉量の少ない子どもでも、しっかりと姿勢を保てる場合が多く見られます。これだけでも、姿勢の維持に神経系が深く関わっていることがわかります。
姿勢は、運動神経・感覚神経・中枢神経系が密接に連携し、全身のバランスを調整することで維持されています。
運動神経の中でも、錐体外路系は無意識のうちに筋緊張やバランスを自動調整し、外乱(つまずき・揺れなど)に対して即時に姿勢を立て直す「安全装置」として機能します。
感覚神経(固有感覚・前庭感覚・視覚)は、体の位置や動き、傾きの情報を正確に脳へ伝えます。
中枢神経系(脳幹・小脳・大脳皮質・大脳基底核)は、感覚情報と運動指令を統合し、随意運動と自動的な姿勢保持を同時に制御します。特に脳幹と小脳は、姿勢制御の要となる中枢です。
これらのうち、特に中枢神経系と錐体外路系は、筋肉が動く前に姿勢やバランスを整える重要な役割を担っています。
そのため、どれか一つでも機能が低下すると、筋力が十分にあっても正しい姿勢は維持できません。
つまり、姿勢の悪化は「筋力不足」だけでなく、中枢神経系や錐体外路系を含む神経ネットワークにおける情報処理・統合の乱れによっても引き起こされるのです。
錐体外路系を活性化するには、ハイキング・山歩きがおすすめ
【山歩きで錐体外路系が活性化される理由】
山道は平坦な道と違って、以下の要素が同時に刺激になります。
・不整地(足元の安定しない場所)でのバランス調整
岩や斜面など変化のある足場では、姿勢反射や自動歩行パターン(脳が細かく命令を出さなくても、脊髄や脳幹レベルで歩行動作が自動的にリズミカルに発生する仕組み)が頻繁に働きます。
このとき、小脳や前庭系と協調しながら、錐体外路系が常に微調整を行います。
・速度・リズムの変化
坂や段差で歩幅や速度が変動し、動作を滑らかに保つ働きが必要。
この変化をスムーズに行うのも錐体外路系の役割です。
・全身の協調運動
腕や上半身のバランス保持(ストック使用や腕の振り)や視覚・前庭感覚の連携が求められます。
・感覚統合のトレーニング
視覚(地形の把握)、固有感覚(足裏や筋肉の伸び縮み)、前庭感覚(傾き・回転)が同時に情報として入ります。
錐体外路系はこれらの情報を素早く統合して出力します。
山歩きは、姿勢保持・無意識的な運動調整・感覚統合を同時に刺激し、全身の良いストレッチにもなる運動です。
錐体外路系の自然なトレーニングとなり、大脳皮質の運動制御機能や、大脳基底核を介した錐体外路系の働きが自然に高まります。
また、足の位置やコースの選択によって前頭葉が活性化します。さらに、「自分がどこにいるのか」「無事に帰って来られるように」と、場所を記憶するために海馬が働きます。そして、適度な負荷やストレスのあとに達成感という報酬が得られることで、脳がリセットされ、気分や集中力が回復します。







